シナプスとは「ある神経細胞から別の神経細胞へ情報が伝達される場所」のことを指します
声かけをしてもらう事でいつもより多く筋トレの回数がこなせる、筋力が発揮できるなどは中枢のシナプス伝達が促通された結果です。これら促通や抑制はシナプス伝達によって生じる結果であり、これを理解することで治療やトレーニング指導の幅が広がると思います。
シナプス入力の種類
シナプス入力とはシナプスに入ってくる情報のこと。これには興奮と抑制の2種類あります。
興奮性シナプス後電位(EPSP)はシナプス後細胞を脱分極させるシナプス入力で、膜電位を閾値すなわち活動電位の発火点に近づけます。
抑制性シナプス後電位(IPSP)はシナプス後細胞を過分極させるシナプス入力で、膜電位を閾値から遠ざけ、活動電位の発火点から遠ざけます。
これらの興奮性入力と抑制性入力の総和がシナプス後細胞の閾値に達することができれば活動電位をします。
コスタンゾ明確生理学
加重
加重とはシナプス入力のパターンみたいなもので、時間的加重と空間的加重があります。同じニューロンを通してたくさんのシナプス入力するのか、色々なニューロンを通してシナプス入力するのかほ違いです。

時間的加重とは2つのシナプス前入力がシナプス後細胞に素早く連続して到着したときに生じる。入力は時間的に重複するので加算される。
コスタンゾ明解生理学より
具体例は

空間的加重とは2つまたはそれ以上のシナプス前入力が、シナプス後細胞に同時に達した時に生じる。両方の入力が興奮性なら、それらが加算され、どちらかの入力が別々に発生させるよりもより大きな脱分極を発生させる。片方の入力が興奮性でもう片方が抑制性ならお互い打ち消しあう。
コスタンゾ明解生理学より
具体的には自動介助運動がこれにあたる。①患者自身が動かす意思(運動野からの指令)によりα運動ニューロンへの刺激②徒手的な介入で伸張反射促通することによるα運動ニューロンへ刺激。2つの刺激が興奮性に加重されることで運動発現しやすくなる
その他にも運動に関する加重刺激として挙げられる代表的なものとして、触ることでの触刺激(タッピング)や声掛け、頭部屈伸回旋による頚反射、平衡器官への刺激による迷路反射などが挙げられます
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神経伝達の収束と発散
収束 多数対1の構造

1個のニューロンの軸索が分枝して複数のニューロンにシナプス結合すること。
生理学テキストp79
例 運動ニューロンへは中枢性ニューロンや求心性線維からの入力がある。入力の合計によりシナプス後細胞が活動電位を発火するか決める
発散 1対多数の構造

1個のニューロンへの複数のニューロンの軸索がシナプス結合すること。
生理学テキストp79
例 求心性線維からは脊髄ニューロンに対して発散がある。また、小脳に存在する1つの苔状線維は53個もの顆粒細胞に対して結合している。
シナプス結合のバリエーション
シナプスの結合様式にらよって機能の異なる多くの神経回路が作られています。
すべての神経回路の機能が明らかにされているわけではないみたいです。

- 1つのシナプス結合では興奮またはシナプス後抑制が生じる。
- シナプス前抑制は抑制性介在ニューロンが興奮性シナプスの神経終末にシナプス結合する。
- 脱促通では抑制性ニューロンの興奮で中間にある興奮性ニューロンの効果が除去され、IPSPなしに抑制効果を生ずる。
「興奮」の例の1つが伸張反射です。感覚神経であるⅠa線維が直接α運動ニューロンとシナプス結合して筋収縮を促通します。伸張反射のように1つのシナプスしか介してないことを単シナプス結合といいます。加えてⅠa線維はⅠa抑制性介在ニューロンにも結合します。このⅠa抑制性介在ニューロンは拮抗筋のα運動ニューロンにシナプス結合し、筋収縮を抑制します。この場合は2つのシナプスを介しているので2シナプス結合といいます。

- 脱抑制では抑制ニューロンの興奮が介在する抑制ニューロンを抑制して最終ニューロンの興奮性を上昇させる。
- 軸索分枝が直接のまたは他のニューロンを経由してそのニューロン自身に影響を与えるのは反回性結合という。
- 反回抑制は側枝が抑制性介在ニューロンを興奮させ抑制をもたらす。フィードフォワード抑制では興奮性入力は、あらかじめ抑制の程度を計算して、一方的に対象を抑制する。この抑制ではフィードバック抑制より予測時に精密な計算が要求される。
- フィードバック抑制は予測不可能な変化に対しても機能するが、フィードフォワード抑制には予測が必要である。興奮性ニューロンで閉回路が形成される場合を反響回路といい、興奮はこの回路の中を循環し、出力として持続的にインパルス列が生ずる
反回抑制の例としてレンショウ細胞があります。レンショウ細胞はα運動ニューロンからの軸索から分枝して再びα運動ニューロンへ結合し、抑制性に働きます。レンショウ細胞は運動の調節に役立っていると言われています。
こう見てみると抑制系の結合が多いのがわかりますね。これには理由があるようです。以下の2つが参考になります。⇩
抑制系は到達する感覚情報がどこからきてどんな種類かを見分けるのに役立っている。感覚ニューロンは中枢へ情報を送るほか、抑制性介在ニューロン*と結合して隣接する感覚ニューロンを抑制する。この作用は抑制に囲まれた興奮部位を作り出し、感覚入力の有無・その位置・感覚入力強度を識別するのに役立つ
ヒトの動きの神経科学

*介在ニューロンとは脊髄や中枢神経系の奥深くに存在し、運動ニューロンと感覚ニューロン、それと高次中枢から下行してくる入力を結びつけている。また2次ニューロンで感覚情報を装飾も(増強・減弱)している。
随意運動の制御を行う上位中枢は、筋肉を活動させると同時に、重要性の低い感覚入力を「シナプス前抑制」を使って効果的に抑制していると考えた。本研究によって「シナプス前抑制」の機能的な意義が初めて実証された (Nature Neuroscience 6: 1309-16, 2003)
シナプス前抑制の機能的意義を解明 日本生理学会より
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まとめ
シナプス結合のバリエーションはさまざまで神経科学系の本を読む時に知っていると理解しやすいたら思います。
加重、神経伝達(収束、発散)は特に治療やトレーニン指導の際に知っておくと介入の幅が広がって色々と面白いと思います。刺激の種類や刺激のタイミング、どこの感覚器に対する刺激なのかなどアイデアは尽きません。
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