報酬系(ドーパミンやオピオイド)と痛み・鎮痛の関係

理学療法

下行性疼痛抑制について学んだとしても、これがどうやったら働くのか? この疑問を持った人はいませんか?

この疑問を解決するのが今回の内容です。ポイントは「報酬系」と痛みの関係です。

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    下行性疼痛抑制について復習

    下行性疼痛抑制とは、中脳中心灰白質に刺激を加えた際に鎮痛作用をもたらす神経伝達物質を放出する仕組みのことです。

    侵害刺激が末梢神経を伝わり脊髄、脳へ神経伝達された際に中脳中心灰白質にも神経伝達されます。この中脳中心灰白質は神経伝達されると縫線核と青斑核に対して興奮性シナプスすることでセロトニンとノルアドレナリンなどが脊髄後角に作用することで鎮痛に働きます。

    この働きがあるので、ヒトは必要以上に痛みを感じないようになっています。またスポーツの試合中の怪我や戦争中の外傷などもこの下行性疼痛抑制が機能する事でその場では痛みを感じずに済んでいます。

    報酬系とは?

    「報酬」とは生物学的に必要とされる摂食、性行動、睡眠だけでなく、人固有の報酬として学習や人から感謝されること、きれいな景色を見たときなどがあります。各個人によって報酬となる刺激は異なります

    「報酬系」とはドーパミン神経回路のうちのひとつの作用で、外的からの情報を扁桃体で判断して快楽刺激となれば扁桃体⇨腹側被蓋野⇨(ドーパミン)⇨側坐核⇨(オピオイド)を刺激することで多幸感を感じるシステムです。

    腹側被蓋野は報酬自体を感じる機能ではなく、報酬を期待する機能をもっています。これにより以前報酬を受けた刺激に対して腹側被蓋野が反応し、まだ報酬をもらってないのにドーパミンを分泌することができます。

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    ドーパミン放出について

    ドーパミンは中脳腹側被蓋野(A10神経核)にあります。ドーパミンが側坐核に作用するにはβエンドルフィンが腹側被蓋野に作用しなければなりません。βエンドルフィンはオピオイドのひとつです。内因性βエンドルフィンはストレスホルモンであるCRHの放出過程で産生されます。

    ストレスホルモンの詳細はこちら

    βエンドルフィンは中脳腹側被蓋野とシナプス結合している抑制性介在ニューロンに対して抑制性に作用します(=脱抑制)。その結果中脳腹側被蓋野からの神経終末から側坐核に対してドーパミンが放出されます。

    痛みの考え方 丸山一男参照

    報酬系と鎮痛

    神経回路の一致

    報酬系と痛み刺激は腹側被蓋野以降の神経伝達路は同様な部位を通るようです

    <報酬系> 

    快刺激⇨腹側被蓋野⇨(ドーパミン)⇨側坐核⇨(オピオイド)⇨多幸感

    <痛み刺激>

    痛み刺激⇨腹側被蓋野⇨(ドーパミン)⇨側坐核⇨(オピオイド)⇨中脳水道灰白質、青斑核などへ⇨①鎮痛、②下行性疼痛抑制系を賦活

    ドーパミンを受けた側坐核はμオピオイドを放出して、脳内のオピオイド受容体を持つ様々な部位に作用します。そのうちのひとつが中脳水道周囲灰白質で、下行性疼痛抑制系を賦活します

    報酬系に関与するドーパミンと鎮痛に関与するオピオイドを阻害する薬を使用した際の実験があります。

    この実験ではカプサイシン注入に際し,あらかじめ側坐核(NAc)にopioidのantagonist*やdopamineのantagonist*を注入しておくと,pain-induced analgesia(痛み誘発鎮痛)は起こらないことを確かめている.

    practice of pain management 慢性疼痛と脳 第2回参照

    *アンタゴニスト(拮抗薬)とは受容体と結合するだけで、結合した細胞を活性化させない(不活性化)させる物質。アゴニスト(作動薬)は受容体と結合して、結合した細胞を活性化させる物質。

    カプサイシンは痛み刺激として使用し、痛み刺激が加わった際に下行性疼痛抑制系が賦活させる(痛み誘発鎮痛)はずだが、ドーパミンやオピオイド阻害することで下行性疼痛抑制系が賦活しなくなったそうです。やはり下行性疼痛抑制系が賦活するにはドーパミンやオピオイドが関与していることがこのことからもわかります。

    報酬系と痛みはお互いに影響しあう

    神経回路が同様なら報酬と痛み刺激にどのような関係があるのか?それを調べたのが以下のようなものです。

    a / 痛みと快感の両方が、前頭前野眼窩皮質(OFC)、扁桃体(Amy)、側坐核(NAc)、腹側淡蒼球(VP)でオピオイド放出を誘発することが示されている。快感や報酬を期待することは、腹側被蓋野(VTA)からNAcとVPへの相性ドーパミンシグナルの増加にも関連しており、これによりNAcではμ-オピオイドの放出が増加する。痛みは、使用された測定の種類や痛みモデルに応じて、中脳辺縁系ドーパミンシグナルの増加と減少の両方と関連している。

    b / ナロキソンなどのμ-オピオイド受容体拮抗薬は、快感に関連した鎮痛を逆転させる。

    c / モルヒネなどのμ-オピオイド受容体刺激薬は、以前は痛みを伴うことで減少していた快楽を再び可能にすることが示されている。

    Siri Leknes and Irene Tracey:A common neurobiology for pain and pleasureより引用

    痛みに伴う報酬があると結果的に痛みを少なく感じ、オピオイド拮抗薬の使用で報酬が減少することで痛み増強へ。また報酬に痛みを伴うと報酬は少なく感じ、オピオイド刺激薬を使用し痛みが減少することで報酬増強へ作用します

    小さな痛みと引き換えに大きな報酬が得られるような痛みと喜びのジレンマは、楽しい報酬の抗侵害受容作用によって解決されると予測している。場合によっては、生存のためには痛みよりも脅迫や快楽に関連する手がかりの方が重要であり、抗侵害受容作用は脳幹にある下行性疼痛調節系によって媒介されていると考えられている。

    Siri Leknes and Irene Tracey:A common neurobiology for pain and pleasureより引用

    これらのことから報酬系と鎮痛(ドーパミンとオピオイド)は密接に関係していると考えられています。その人にとっての報酬は何なのか?痛みは不快な要素ですが、痛みによってどんな不安要素があるのかは人それぞれです。そこを把握することは重要です。今までの臨床での例はこんな感じです⇩

    • 疾患によって仕事ができず、収入減って生活ができないのが不安
    • 仕事・趣味そのものにやりがいを感じていて、できないこと自体にストレスがたまる
    • 痛みがいつまで続くのか?このまま歩けなくなってしまうのうではないか?
    • 家族の介護をしていて痛みがあると介護がいままで通りにできなくなり、介護者に負担をかけるのが不安  

    中枢性の機能低下・受容体変化

    報酬系自体の機能低下による鎮痛がうまく機能しないことがあります。代表例は慢性腰痛や線維筋痛症(FM)の方です。

    FM患者では脳内μ-opioid受容体が健常者に比して有意に減少していることも報告されている10).μ-opioid受容体の減少がみられるのは,前部帯状皮質,線条体・側坐核,扁桃体などであって,いずれも下行性痛覚抑制系に関与する神経核である

    practice of pain management 慢性疼痛と脳 第3回参照

    mesolimbic dopamine(中脳辺縁ドーパミン)投射を受ける腹側線条体・側坐核に,FM患者は健常者に比して有意な活動低下がみられた.

    practice of pain management 慢性疼痛と脳 第3回参照

    これら慢性腰痛や線維筋痛症の方は鎮痛を働かせる脳の機能が備わってない事が、痛みを過剰に感じてしまうことが考えられます

    ではなぜ、このような状態になるのか?

    mesolimbic dopamine systemの中心をなす側坐核には、海馬や扁桃体などからストレス性入力があり、恐怖や不安などのストレス性入力が続くとドーパミンのphasica ctivity(相性活動)*が消失して、鎮痛が得られなくなる

    practice of pain management 慢性疼痛と脳 第3回参照

    ストレス・不安・うつなどが存在すると海馬からtonicドーパミンが放出される。その結果,痛み刺激に対するphasicドーパミンの反応性は低下し十分なμ-オピオイドが産生されなくなり、痛みが増幅されていく。

    慢性腰痛とドーパミンシステム 臨床整形外科 44巻9号 紺野慎一

    *ドーパミン活動にはtonic activityとphasic activityがあり、鎮痛に関与するのは後者。tonic activityは不規則に少量のドーパミンを緩やかに放出しており、このtonic activityが大きいとphasic activityが小さくなる関係にあります。

    側坐核は報酬系の刺激のみではなく、懲罰系の刺激の入力も入ります。このことで危険なこと不快なことからは避けるような行動をとるとされます。これがいわゆるストレス性入力です。

    人は不安やストレスに感じると海馬や扁桃体が活動します。これにより痛みが平常時よりも増悪して強く感じてしまうようです。このストレスとは身体的だけではなく、精神的ストレスも含まれます。なので対象者の身体面だけではなく、精神的な面や周辺環境などにも着目する必要があります。

    最後に

    報酬は生物学的に必要とされる摂食、性行動、睡眠。これらに加えて人間固有の報酬を持っています。それ自体は各個人で異なるためそのことを知ってうまく生かすことは大事になると感じました。具体的に趣味・思考や行動を評価することになると思います。

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