肩関節周囲炎に対してMRI検査は必要?国内外の診療ガイドライン、論文を調べてみた。

理学療法

肩関節周囲炎への画像検査としてMRIは必要?有用なのかについて調べてみました。

MRIで肩関節周囲炎の何がわかるのか?リハビリや運動指導などには役立つ情報なのか?などの問いに答える内容になります。

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    肩関節周囲炎の診断基準

    古来、50歳くらいに好発する肩の疼痛、可動域制限を主訴とする肩関節疾患を総称して五十肩とよんでいた。その後、この疾患群の中に腱板損傷や石灰性腱炎が含まれることが判明し、今日ではこれらの病態のはっきりした疾患を除外した残りの疾患群を五十肩、肩関節周囲炎、癒着性関節包炎とよんでいる。

    標準整形外科p378参照

    臨床所見としては夜間や安静時の痛み、関節可動域制限が目立ち、特に挙上や回旋が特に制限されます。また痛みはピンポイントではなく、肩のいくつかの部位や全体的に痛むことが多いです。筋力は比較的維持されています。

    医師の診察ではレントゲン検査と肩の動きの検査、痛みの問診などを通して肩関節周囲炎と診断されることが多いです。


    肩関節周囲炎の診療ガイドライン

    MRI is not routinely performed in patients with FS to diagnose the condition. However, it could be done to rule out any secondary cause of FS if there is a clinical suspicion. In an early freezing stage, MRI may show edema of joint capsule and obliteration of the sub-coracoid fat triangle. In the frozen stage; MRI shows capsular and CHL thickening, poor capsular distension, volume reduction of the axillary pouch, and scar formation in the rotator interval [37].

    MRIは、FS(肩関節周囲炎)の診断のために、FS患者にルーチンに行われることはない。しかし、臨床的に疑われる場合は、FSの二次的な原因を除外するために実施することは可能である。初期の凍結状態では、MRIは関節包の浮腫と烏口蓋下脂肪の三角形の消滅を示すことがある。凍結期では、MRIは関節包とCHLの肥厚、関節包の膨張不良、腋窩の容積減少、腱板疎部の瘢痕形成を示す

    Clinical Guidelines in the Management of Frozen Shoulder: An Update

    Diagnosing adhesive capsulitis is primarily determined by history and physical examination, but imaging studies can be used to rule out underlying pathology. Radiographs are typically normal with adhesive capsulitis but can identify osseous abnormalities, such as glenohumeral osteoarthritis. Arthrographic findings associated with adhesive capsulitis include a joint capsule capacity of less than 10 to 12 mL and variable filling of the axillary and subscapular recess.71,86,105 Magnetic resonance imaging (MRI) may help with the differential diagnosis by identifying soft tissue and bony abnormalities.9,128 MRI has identified abnormalities of the capsule and rotator cuff interval in patients with adhesive capsulitis.33,41,75 Mengiardi et al75 performed magnetic resonance arthrograms on 122 patients who were treated with arthroscopic capsular release and compared the findings with those of an ageand sex-matched control group; findings included a thickened coracohumeral ligament and joint capsule in the rotator cuff interval and a smaller axillary recess volume, but without axillary recess thickening. Using MRI, axillary recess thickening, joint volume reduction, rotator cuff interval thickening, and proliferative synovitis surrounding the coracohumeral ligament have been observed in patients with adhesive capsulitis

    癒着性関節包炎(肩関節周囲炎)の診断は、主に病歴と身体検査によって決定されるが、画像検査は基礎疾患を除外するために用いることができる。レントゲン写真は通常、癒着性関節包炎では正常であるが、肩甲上腕骨変形性関節症のような骨格の異常を特定することができる。関節造影所見では、癒着性関節包炎に関連し、関節包容量が10~12mL未満であること、腋窩と肩甲骨下凹部の充填が一定ではないことが挙げられる。Mengiardiら75 は、関節鏡視下腱膜リリース術を受けた122名の患者にMRIを実施し、年齢と性をマッチさせた対照群と所見を比較した。所見には、腱板疎部*における烏口上腕靭帯と関節包の肥厚、腋窩凹部の容積が小さくなっていたが、腋窩凹部の肥厚はなかった。MRIでは、腋窩凹部の肥厚、関節容積の減少、腱板疎部の肥厚、烏口上腕靱帯周囲の増殖性滑膜炎が、癒着性被膜炎患者で観察されている。

    Shoulder Pain and Mobility Deficits: Adhesive Capsulitis

    *腱板疎部:rotator intervalとは,本邦では腱板疎部と呼ばれているが,腱板の中の棘上筋腱と肩甲下筋腱の間をさし,関節包とそれをおおっている滑液包からなる.

    海外の肩関節周囲炎のガイドラインには上記のようにMRIは診断に必須ではないが除外診断に活用でき、またレントゲンではわからない関節包や靭帯などの軟部組織の状態を把握することができます。

    以下は国内の理学療法ガイドラインです。

    MRI 推奨グレードB(信頼性,妥当性が一部あるもの)
    ・ 癒着性関節包炎の臨床段階の重症度と,MRI による関節包および関節滑膜の厚さと信号強度,腱板疎部の瘢痕の有無や程度は相関した 1)。
    ・ 肩関節痛と可動域制限を有する長期血液透析患者では癒着性関節包様の所見を呈し, 腱板疎部内の非脂肪性軟部組織の増加は 65%の患者にみられた。血液透析期間との間 に強い正相関がある腱板疎部の非脂肪性軟部組織の浸潤は外旋制限との間にも強い正相関が認められた 2)。
    ・ MRI上で下部の関節包と滑膜の厚さが4 mm 以上であれば癒着性関節包炎の診断精度 が高い(感度 70%,特異度 95%)。関節液の貯留量や烏口上腕靭帯の厚さでは癒着性関節包炎の確定診断が困難である 3)。

    肩関節周囲炎 理学療法ガイドライン参照

    MRI 造影(MRI arthrography) 推奨グレードA(信頼性,妥当性のあるもの)
    ・ 凍結肩の患者のMRI造影では明らかに烏口上腕靭帯と腱板疎部の関節包が厚く,腋窩 陥凹の容量は対照群と比較して小さかった。烏口上腕靭帯の厚さが 4 mm 以上の時は 凍結肩診断の感度が 59%,特異度が 95%であった。腱板疎部の関節包の厚さが 7 mm 以上の時は感度が 64%,特異度が 86%であった。肩甲下筋腱上縁の滑膜炎様の異常が 対照群より多くみられた。烏口下三角の脂肪閉塞を有しているときは感度が32%,特異度が 100%であった 7)。
    ・ 癒着性肩関節包炎患者の関節包・滑膜の平均の厚さは,対照群よりも有意に厚かった。 造影剤充填による関節包の拡張は有意に小さかった。腱板疎部の平均幅に有意な差は認められなかった 8)。

    肩関節周囲炎 理学療法ガイドライン参照

    国内のガイドラインでも海外と同様にMRI検査に一定の信頼性があり、関節包・靭帯などの肥厚を認めるようです。またMRI造影(関節造影)検査は推奨グレードAで通常のMRIよりも推奨グレードが優れています。しかし、MRI造影の場合、侵襲性を伴うので対象者の希望や益と害のバランスを考慮して実施していると思われます。


    肩関節周囲炎のにおけるMRI関連の論文

    また以下の論文では、MRIで腫脹が認められた部位や夜間痛との関連について考察されています。

    関節内のeffusionは68.8%に 、肩峰下滑液包内のeffusionは23.4%に、上腕二頭筋 長頭腱周囲のeffusionは、69.4%にみられた。

    MRIから見た肩関節周囲炎の病態

    五十肩の唯一の異常所見としては浸出液の貯留像があげられ、関節外にはほとんど存在せず関節内に貯留する傾向があった。特に腋窩陥凹部周辺の浸出液貯留像は、五十肩の特徴の一つである夜間痛の原因と考えられた。また上腕二頭筋腱鞘周囲の浸出液貯留像が発症初期に多く認められ、同部位での炎症が五十肩の初発像である可能性がある。

    MRIによるいわゆる五十肩に関する研究

    腋窩陥凹部の浸出液貯留は関節内の浸出液貯留を反映しており、これによる関節内圧上昇が夜間痛の原因と考察。また腱板不断裂では腋窩陥凹部の浸出液貯留があっても夜間痛を認めず、この理由として腱板不全断裂によって徐々に関節内の浸出液が肩峰下滑液包に露出し、関節内圧上昇が少ないためと考察してます。


    関節内圧について

    肩関節の内圧は基本的には陰圧です。陰圧とは外部の圧力(大気圧)よりも圧が小さく、外部の圧との差により関節が安定するようになっています。

    関節内圧は高まりすぎると関節包や靭帯の損傷の危険性があるので、関節内圧を逃がしてあげるような仕組みが肩甲下滑液包にあります。それが以下の通りです。

    肩甲下滑液包は、肩甲下筋腱、肩甲骨頸部周辺、関節包でできた隙間にある。関節腔とは上臼蓋上腕靭帯と中臼蓋上腕靭帯の間にあるWeitbrecht孔で連絡があり、内圧の変化に伴って関節液が出入りする。関節造影では肩内旋時に撮し出される。肩関節周囲炎では、この滑液包が造影されず、閉塞していることが示唆される。関節液の行き場が少なくなった分だけ関節内圧が高くなり最終可動域での関節痛(関節水腫と同じ状態)が生じることなどが推測できる。

    肩関節周囲炎に対する理学療法の再考

    肩関節の関節内圧は正常では陰圧ですが、関節液の移動が制限されることで内部からの圧が高まり静的な支持機構が機能しにくくなると考えられます。そのため、肩周囲の筋による防御的収縮で肩を安定させていると思われます。

    しかし、夜間になると防御的な収縮は失われるため関節内圧上昇による疼痛が夜間の痛みとして出現すると考えられています。

    そこで関節内圧を下げるために実施されているのが、joint distension。関節造影しつつ関節内注射・関節運動を加えることで関節包の閉塞を改善させる手技です。以下の文献が参考になりました。

    参考文献⇩


    まとめ

    MRI検査をすることで、XPではわからない軟部組織の病変や関節の腫脹などの評価はできますので治療者側からは有益な情報が多くあると思われます。

    しかし肩関節周囲炎のガイドラインにMRIの特徴的な所見が掲載されているので、これらの情報も頭に入れつつ臨床介入し、肩関節周囲炎とは異なる経過を辿っている患者の場合、医師にMRI検査やその他の検査などを相談するのが良いかと思われます。

    関節鏡所見,病理所見,画像所見などから肩関節周囲炎では関節滑膜の炎症(一次性の拘縮では無いとされる)と肥厚があること,関節包・腱板疎部・烏口上腕靱帯が線維化して肥厚していること,関節包の容量が少ないこと,肩甲下筋下滑液包の閉塞が認められるが関節内癒着は観察されないこと,肩峰下滑液包の血流が増加していることなどが明らかとなった。筋の短縮以外の理学療法のターゲットとしては,関節包・腱板疎部・烏口上腕靱帯の伸張性の低下と短縮,肩甲下筋下滑液包の閉塞,肩峰下滑液包の滑動障害ということになりそうである

    肩関節周囲炎 理学療法ガイドライン参照

    最後に、肩関節周囲炎の患者さんは痛みと可動域制限による日常動作の不便さに困っている方がほとんどです。MRIによる詳細な病態把握も重要ですが、疼痛軽減のための薬や注射、理学療法への積極的な参加、疾患の理解を促すことも同等に重要だと考えます。

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