今回は神経による循環調節についてです。運動の効果・反応は関節や筋肉だけに出現するのではなく、循環系(心臓・血管)にも影響があります。
これらを学ぶことで、運動時の神経性調節による血流循環の調節を理解できます。ポイントはセントラルコマンド,筋化学・代謝受容器、心臓圧受容器です。それぞれが交感神経に対して作用して血流循環を調節しています。
なんとなく循環について知っているが細かく説明できない方や運動の効果をより細かく知りたい方向けに書いています。では具体的に見ていきましょう。
自律神経について
運動時の骨格筋への血流循環は主に自律神経により調節されます。
自律神経による循環調節のことを神経性調節と呼びます。
末梢からの情報(体性感覚)が自律神経中枢の一つである延髄孤束核に入力され、情報を統合し自律神経遠心路を通して筋血管(平滑筋)・内臓血管・心臓などに作用します。

自律神経は交感神経・副交感神経から構成され、血管平滑筋は交感神経単独の支配
交感神経には血管収縮作用・血管拡張作用があり、神経伝達物質と結合する受容体によって作用が異なります。
①アドレナリン作動性神経からノルアドレナリンが放出。α受容体に結合→血管収縮
②アドレナリン作動性神経が副腎髄質へ接続し、副腎髄質からカテコールアミン(アドレナリン)が分泌され、β受容体に結合→血管拡張
③コリン作動性神経*からアセチルコリンが放出され、ムスカリン受容体に結合→血管拡張
*交感神経にコリン作動性神経が存在するのは例外で、骨格筋・汗腺のみと言われている
交感神経トーヌスと血流について
血管に存在する交感神経は常時活動していくれています。そのおかげで、常に平滑筋が収縮しています。
この自律神経活動を「トーヌス」と呼びます(緊張性、活動性という意味)。
このトーヌスがあるため血圧を維持できており、トーヌスが急激に低下すると平滑筋が弛緩して血圧を保てなくなってしまいます
このトーヌスよりも交感神経活動がより活発になると血管収縮し、血流量低下します
逆に、交感神経活動低下すると血管拡張し血流量増加します

運動時にはこれら交感神経をどのように調節するかがポイントとなってきます。
運動時における自律神経の調節因子
非常にわかりやすい文献がありますのでまずはこちらからみてください。
運動時には活動筋の酸素需要に応えるため、循環系は心拍出量を増大させ、血流の再配分を行う。この調節には筋ポンプ作用や局所性の血管拡張作用なども重要であるが、自律神経系の果たす役割が非常に大きい。延髄にある循環中枢で様々な入力が統合され、自律神経活動が調整され、心臓と血管を調節する。
運動時の循環調節:基礎研究から臨床への展開 高橋真

運動を継続して行うには酸素が不可欠です。この酸素を送り込むために交感神経を興奮させ心臓の拍出量増加や血管収縮による非活動部位の血液を活動部位に送る仕組みとなっています
この交感神経の興奮は以下の3つで調節されています
セントラルコマンド
直訳すると「中枢指令」
セントラルコマンドは動作開始前から血圧の上昇、交感神経促通に関与しています
具体的には大脳皮質から生じる運動コマンドと同期して高位中枢から起こり、循環系をフィードフォワード的に調節します。覚醒状態で筋弛緩薬を投与した状態(末梢での交感神経へ関与をなくした状態)で被験者に運動努力を行わせると、心拍数および血圧はその運動努力に依存して増加することから大脳の影響が考えられる。
運動時の循環調節:基礎研究から臨床への展開 高橋真
運動する前から中枢(脳)で運動できる循環状態にしてくれているということですね
運動筋受容器反射
筋肉内の環境の変化に応じて循環調節する仕組みです。この環境の変化を感じるのが
筋機械受容器と筋代謝受容器です
筋機械的受容器はいわゆるメカノレセプターってやつです。関節・靭帯などにあり関節運動によって刺激され、その情報が中枢へ行き交感神経活動を調節し血管収縮に作用します。動脈では血管抵抗上昇、静脈では血管容積低下が起こります。
同じ交感神経支配の二つの血管だが、平滑筋が収縮した際の反応は異なる。動脈では血管抵抗増大、静脈では血管内容積低下(=静脈還流量増加)となる。静脈還流量増加が増加することで心臓に戻る血液量が増加し、心拍出量も増加。結果的に交感神経により平滑筋が収縮することで静脈にあった血液が動脈へ循環する仕組みになっています
筋代謝受容器は化学受容器とも呼ばれ、ポリモーダル(多様性)受容器の1つです。この受容器は筋肉内のPH低下で刺激され、中枢神経により交感神経活動を調節します。(PHの低下は水素イオンの過剰な流入などによって起こります)。
上記の流れは、硬膜外麻酔により感覚神経を遮断すると消失することから活動筋からの反射性循環調節機構であることが確認できます(体性感覚→自律神経反射)
ここで注意したのが、活動筋の機械・代謝受容器により活動筋血管は収縮しますが、実際は活動筋の血管は拡張し血流量増加しています。これはなぜか?
全身の循環調節には局所性、神経性、液性の3つがあります。活動筋の場合、神経性による活動筋血管収縮よりも局所性の代謝産物による血管拡張作用が優位となり、活動筋血管拡張に働くと言われています。
コスタンゾ明解生理学p191~
非活動筋では交感神経興奮により血管収縮に働きます。
局所性循環調節についてはこちら⇩

動脈圧受容器反射
大動脈弓および頚動脈洞の血管壁にある血圧を感知する受容器(圧受容器)からの入力に対して反射性に自律神経活動をフィードバック制御する
安静時にも働いており、血圧を一定に維持するために重要である。つまり上がりすぎた血圧を低下させるように作用してくれています。
このため動脈圧受容器反射のみは交感神経に対して抑制性に作用します。
まとめ
セントラルコマンドと筋機械・化学反射は交感神経促通(=血管収縮)に作用し血液を活動筋に送る作用がありますが、動脈圧受容器反射は上がりすぎた血圧を抑制するために交感神経抑制に作用してくれています
圧反射 ~高圧・低圧反射~
平滑筋は交感神経支配ですが、心臓は交感神経と副交感神経の二重支配です。そして心臓には圧反射という血圧・血液量の調整に必要な重要な反射があります。
圧反射には高圧受容器反射と低圧受容器反射があります
高圧受容器反射(動脈圧反射)
高圧受容器は上述した動脈圧受容器反射のことで、動脈圧が上昇することで交感神経抑制、副交感神経促通し心拍出量低下・血管拡張させ動脈圧低下に作用します
これに加えて副腎髄質からのカテコールアミン分泌も減少し動脈圧低下に関与してます
これらの効果は短期的で、中長期的な効果は液性調節や腎臓による血液・体液量調節が必要となります

低圧受容器反射(心肺圧受容器反射)
低圧受容器反射は血液量の低下を防止する役割があります。なので低圧で作動し、バゾプレシン・アルドステロンの分泌が促通され尿量減少・血液量増加により血圧上昇に作用します。高圧になるとバゾプレシン・アルドステロンの分泌が抑制され尿量増加・血液量減少により血圧低下に作用します。
低圧受容器の活動は心房内圧と生の相関がみられ、心房容積あるいは静脈還流量をモニターしています。
低圧受容器は心房と静脈の合流部の心房壁、肺血管などに存在します。

低圧により(出血によるショックなど)刺激されると脳幹での神経伝達を経て血液量を調節するホルモン(バゾプレシン)が下垂体後葉から分泌されます。バゾプレシンにより腎臓での尿量減少に作用し結果的に、血液量回復・血圧上昇に作用します。
加えて吻側延髄腹側野*にも低圧受容器からの連絡がいき、腎交感神経興奮に作用しレニン・アンジオテンシンⅡ系が促通され副腎皮質からのアルドステロンが分泌により、尿量減少・血圧上昇に作用します
*吻側延髄腹側野は循環中枢であり、心臓・血管の交感神経トーヌスを維持する役割
臨床応用
個人的にリハビリで応用が効くと感じているのは、
①運動する事で静脈還流量が増えること
これにより局所循環の改善により、神経に対する圧力が減少し疼痛軽減に作用するのではと考えています。循環改善には静的運動よりも動的運動で軽度な抵抗をかけたり、患部の状態によっては全身運動や非患側の運動を中心にして患側も動作に含ませるなど工夫することで循環改善を意識しています。
②PHの低下が刺激となり交感神経興奮につながる事
PH低下によりポリモーダル受容器が刺激されることが交感神経興奮だけではなく、痛み刺激にもなります。なのでPH低下を引き起こさない環境を作ることで重要となります。
具体的には、姿勢・運動自体によるPH低下です。これは座りっぱなしの腰痛や立ちっぱなしでふくらはぎ痛など持続的な収縮による循環不全による痛みです。なのでこれらは少し歩いたり、異なる動きをして循環改善すれば症状軽減することが多いです。また、血管(おそらく静脈?)を直接圧迫による血流低下が想定されます。胸郭出口症候群や手根管症候群、腰椎脊柱管狭窄症など神経・血管の圧迫による疾患はこれに当たります。加えて筋攣縮による筋内圧上昇で生じる循環不全もPH低下につながることも考えられます。
③活動筋に血流循環させるために、非活動筋の血管収縮させる点(局所性調節)
これは患部外トレーニングの効果による患部の循環改善の可能性があると考えています。例えば、患部の関節は動かせないが二関節筋を介して筋腱の滑走を維持する、神経の滑走を維持するような患部外治療はあります。これに加えて患部外トレーニングにより患部の血管に対しても交感神経系が働き血管収縮して循環を促すことで不動による循環不全を軽減することができる可能性があるのでは?と考えています
まとめ
循環のことを中心に調べてまとめましたが、運動することの効果・反応を筋力・持久力だけに求めるのではなく自律神経系の影響も多大にあることが学べました。
運動すること、運動指導することを神経系(運動・感覚・自律)の全体、中枢も含めて捉えていくといろんなものが見えてくるようになりそうな気がします
参考文献・図書
https://magikun-reha.com/wp-content/uploads/2020/12/運動時の循環調節:基礎研究から臨床への展開.pdf
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