扁桃体は大脳辺縁系のひとつであり、側頭葉の背内側部に位置するアーモンドに似た形の神経細胞の集まり
扁桃体は情動の中枢と言われる。「情動」とは感情の一部であり、感情によって引き起こされる自律神経反応や行動のことを指す。
この扁桃体が「情動の中枢としてどう機能しているのか?」を中心に解説していく
扁桃体の役割
一般的に扁桃体は「情動」に関わるとされている。
扁桃体には直接的あるいは間接的にすべての感覚情報が収束する。これらの情報を統合して視床下部や下位脳幹に出力している。扁桃体はこれらの神経のネットワークの中でも生物学的価値判断の役割を持つ。
脳・神経科学入門講座 下 扁桃体(情動) 渡辺雅彦より引用
生物学的価値判断とは、入力された情報が自分(生物)にとって良いこと?悪いこと?を判断しているということ。記憶情報をもとに判断されている。
情動発現までの流れ
扁桃体への入力⇨扁桃体内での情報処理⇨視床下部や下位脳幹へ出力⇨情動発現
直接的に情動発現にかかわるのは視床下部や下位脳幹だが、そこに情報を送るのが扁桃体なので情動発現に関わるとされている。
神経解剖学的分類
扁桃体内でも機能が異なる核があるためいくつかに分類される
- 内側核
- 外側核
- 基底核
- 中心核
この中でも基底核と外側核の機能について
基底核と外側核は認知機能、すなわち「刺激の生物学的な価値を記憶情報に基づいて評価する」機能構造である。視覚、聴覚、体性感覚は視床、皮質感覚野を経由して連合野から外側核や基底核に入力される。一方、嗅覚や内臓感覚は直接扁桃体へ入力される。
脳内物質のシステム神経生理学
これに対して中心核は出力機能を担う
中心核は視床下部や脳幹との結合があり、情動性反応を出力する機能をもつ。また視床下部や脳幹からの連絡も中心核へ入力され相互に連絡しあっている。
脳内物質のシステム神経生理学
情動反応・情動行動の発現までの流れ
この図では感覚情報の入力から自律神経・運動神経による出力までの全体像として理解しやすい。扁桃体は大脳辺縁系の中に属する。
扁桃体と情動反応について解説する図は以下の通り
情動刺激とは情動反応を引き起こす刺激のこと。扁桃体中心核からの出力には、扁桃体内からの情報連絡も影響する。また海馬と基底核の連絡があることで記憶・学習へ関与している。
扁桃体と痛み
痛みは扁桃体によって感じ方が調節されている。扁桃体の活性化で痛覚過敏、扁桃体の不活性化で痛覚過敏抑制。
「持続的な炎症や障害」が扁桃体活性化につながり、痛みを過敏に感じるようになる。なぜ過敏に感じるように作られているのか?これは扁桃体によって痛覚過敏すること(痛みの閾値を調節)で、痛み行動を抑制して生存可能性を高めているためと考えられている
扁桃体とセロトニン
セロトニンの効果
扁桃体の活性化に対してセロトニンが役立つ。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を使用することで細胞外セロトニン濃度が上昇し、セロトニンが扁桃体に作用することで抗不安作用をもたらす。うつ病患者によく使用される。
恐怖条件付け刺激により恐怖反応の出力元である扁桃体が活性化される。この時内側前頭前野や扁桃体でのセロトニン濃度は上昇している。SSRIにより恐怖・不安を減弱する作用があることから、セロトニン濃度上昇は恐怖・不安を惹起しているのでなく生体反応として機能していると考えられる。
セロトニンを分泌するには?
- リズム運動(歩行、呼吸、咀嚼、ダンスなど)
- 太陽光をあびる
- トリプトファン(必須アミノ酸の一つ)を摂取
報酬系との関係
扁桃体には報酬と懲罰のふたつに反応する細胞がある。ドーパミン細胞は報酬系のみに反応する。
しかし、扁桃体の破壊実験では①逃避行動をとらなくなる、②性欲亢進、③罰を恐れなくなるなど懲罰系の機能に深く関与すると考えられている。ドーパミン以外にも多数の神経伝達物質を保有している。
初めての体験などは入力された情報が扁桃体を通して価値判断され、「良い刺激」と判断されると側坐核⇨オピオイド分泌⇨多幸感を生む。
また扁桃体基底外側核と海馬は強く結合しており学習と記憶に関与している。感覚入力された情報が記憶情報をもとに腹側被蓋野を刺激して報酬予測を立て、側坐核を刺激するパターンもある。
恐怖条件付け刺激と扁桃体
恐怖条件付け刺激とは、ある一定の状況で不快な刺激・恐怖を伴うような刺激を条件付ける実験のこと。
例)ラットに音楽を聞かせて(条件刺激)、その後に疼痛刺激を毎回加える(恐怖刺激)のを繰り返すと、音楽を聴いただけで恐怖刺激に対する恐怖反応が出現する
まとめ
感覚情報はすべて扁桃体に入力され価値判断されることから、自分自身の些細なふるまいも相手にとっては感覚情報として判断されるということ。私が治療と思っていないことも相手に影響を与えている。
治療を始める前に不快感や不信感を与えてしまっては、触れる事でよい感覚を与えることは難しくなる。好きな人に触られるのと、嫌いな人に触られるのは全く異なるのと同じ。
第一印象で悪くならないよう、五感(視覚、味覚、嗅覚、聴覚、触覚)に働きかける環境設定と接遇を意識するのが重要かと
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