高齢者に対する自立支援とは?自立支援のポイントや注意点を解説

理学療法

介護保険の創設目的のひとつである「自立支援」

これは高齢者もしくは障害を持った人に対してどのような関わり方をすることを指すのか?

調べてみました。

最近のコメント

    自立の種類

    経済的自立:職業自立(経済的な自立)であり、安定した職業に就くこと、経済的に他人に依存せずに暮らすこと

    日常生活の自立:日常生活動作の自立(ADL 自立)であり、身辺自立とも言われ、日常生活などの身の回りのことを自分が独力で行うこと

    自己決定の自立:介助など種々の手助けが必要であればそれを利用しながら、自らの人生や生活のあり方を自らの責任において決定し、自らが望む生活目標や生活様式を選択して生きること

    ケアマネジャーの要介護軽度者に対する自立支援の考え方に関する文献研究 田 中 潤より引用

    他にも社会的自立などの種類もあり、介護保険領域のみではなく先天的な障害を持った方への考え方や女性の自立など自立支援とひとつとってもどの角度から考察するのかで重要なポイントは異なるようです。

    高齢者に対する自立支援

    では介護保険領域での自立支援とはどのようなことを指すのでしょうか?介護保険制度の概要に明記されています

    自立支援・・・単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をすることを超えて、高齢者の自立を支援することを理念とする

    また高齢者介護・自立支援システム研究会の報告書(1994)で、高齢者の自立支援とは

    「高齢者が自らの意思に基づき、自立した質の高い生活を送ることができるように支援すること」と述べています。つまり介護保険制度では、自立支援を重視しており、高齢者自らが決定を行い、介護サービスや制度を選択し、QOLを支えていく点に特徴がある

    ケアマネジャーの要介護軽度者に対する自立支援の考え方に関する文献研究 田 中 潤より引用

    加えて介護保険法の目的ではこのように記載されています

    第一条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。

    介護保険法

    介護保険における自立支援のポイントは?

    • 自己決定
    • 残存能力の維持、向上
    • 尊厳の保持(=その人らしさ)

    まとめると以下の論文の言葉ですっきりまとまっていると思います

    介助など種々の手助けが必要であればそれを利用しながら、自らの人生や生活のあり方を自らの責任において決定し、自らが望む生活目標や生活様式を選択して生きること

    ケアマネジャーの要介護軽度者に対する自立支援の考え方に関する文献研究 田 中 潤より引用

    なので介護保険領域で利用者と関わる場合は、ケアマネからの居宅サービス計画書や基本情報、フェイスシートなどの情報収集に加えて、実際に会話を通して利用者の希望を確認し、希望に沿ったサービスを提供するのが介護保険の自立支援のポイントだと思います。

    自立支援に対してリハビリでできることは?

    リハビリでは自己決定したその人の希望を一緒に叶えられるようサポートすることにつきます

    具体的には、人間が有している能力の向上です

    リハビリというと身体を動かす能力について着目されがちですが、人間の有する能力はそれだけではなく様々な能力があります。

    ここで紹介するのは、能力ではなく知能と表現されています。知能は人が生活する上で必要な要素であり、IQでは測定することが困難と言われています。多重知能理論参照

    • 言語的知能
    • 論理数学的知能
    • 音楽的知能
    • 身体運動的知能
    • 空間的知能
    • 対人的知能
    • 内省的知能
    • 博物的知能

    人それぞれどの知能が長けているか異なります。苦手な知能を使用して問題解決をするのではなく、その人の長けている知能を生かして問題解決することがその人らしさを活かした援助のひとつかもしれません。具体的な評価の方法などは載せきれませんが、介護認定を受ける高齢者なら身体機能の低下は何かしらあると思われます。しかし、本質的に問題となっているのは身体機能の低下ではなく生活機能の低下(=自立する力の低下)なのです。この生活機能の低下に対してその人が有している能力(知能)を活かしつつ、その人の希望にそった支援をするのがリハビリでできることだと私は思います。

    また、能力という言葉の意味は「物事を成し遂げることのできる力」とあります。

    残存している能力の中でも普段から使用している能力と使用していない能力があり、利用者が有している能力を総合的に判断し、可能な限り引き出すこともリハビリで求められる事の一つです

    身体機能に偏ったリハビリは要注意!!

    通所リハビリでのプログラム内容として多いのが筋力増強訓練、歩行訓練、関節可動域訓練だそうです

    通所リハビリテーション・訪問リハビリテーションの報酬・基準について(案)

    これ自体はなにも問題はないのですが、関節可動域訓練がICF(国際生活機能分類)でいう活動や参加にどの程度繋がっているのか?は考慮しなくてはいけません。

    漫然に関節可動域と称してマッサージ的なリハビリをしていては、介護保険の理念である自立支援とは異なります。提供しているリハビリ内容が利用者の能力維持・改善やICFの活動・社会参加への貢献度を定期的に計画書などで見直していく必要があります。

    生活期のリハビリテーションについては以下の論文で注意点がうまくまとめられています。少し長いですが参考になると思います。

    これまで生活期リハビリテーションの課題として,「身体機能に偏り,利用者の『活動』や『参加』を向上させる取り組みになっていない」「機能訓練が漫然と実施され,目的が明確でない」「廃用症候群への早期対応が不十分で在宅生活の継続に問題がある」「利用者主体の目標に欠ける」「福祉用具・住宅改修が利用者の生活に役立っていない」などの指摘がなされてきた.

    つまり,生活期リハビリテーションはその人らしい自立した生活の再建や在宅生活の継続に課題を抱えていることになる.このような状況に至った背景には,リハビリテーション科医・リハビリテーション専門職の生活機能の理解不足やケアマネジメントの習熟不足などがあるが,加えて自らの専門性に対する姿勢も関係しているように思える.すなわち医療職は,自らの専門性に対する責任から利用者・患者にかかわり過ぎる傾向にあり,障害をもつこと自体で依存的になっている利用者の自立の芽をさらに摘み取ってしまう危険性を内在している.そのため,利用者主体の対応(自立支援)と真逆のパターナリズム(家父長的対応)に陥りやすい.

    さらに,利用者の障害に対する意識も影響しているようだ.発症して長く経過した利用者でも「この手足は何とかならないか」としばしば訴えてくる.このことは障害をもちながら生活せざるを得ない人たちの自然な感情といわれている.これに対して,生活機能の理解がなければ「何とかしてあげたい」と思う専門職は「とりあえず訓練」という対応をしばしばとることになる. 数年前の筆者も同様な対応を行っていた.以上のことを,リハビリテーション科医・リハビリテーション専門職は自らの陥りやすい「落とし穴」として自覚しておく必要があるだろう.

    生活期リハビリテーション 松坂誠應 The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine 2017 年 54 巻 7 号 p. 486-489

    コメント

    タイトルとURLをコピーしました