自己効力感(セルフエフィカシー)について解説していきます。運動やリハビリを指導する上で、対象者の自己効力感を知ることで、対象者の目標達成に対する自信がわかります。
これにより、対象者の自己効力感に合わせた介入が可能となり、長期的に目標に向かってサポートができるようになります。簡単にいうと、『その人の今その時期の価値観、考え方にあったサービスを提供できるようになる』といったところでしょうか。
自己効力感(セルフエフィカシー)とは?
自己効力感の概念について
バンデューラーさんという人が作った考え方で、
人の行動を決定する要因には『先行要因』『結果要因』『認知要因』の3つがあり、これらの要因が絡み合って人と行動、環境という3つが影響し合う。
「人は単に刺激に反応しているのではない。刺激を解釈しているのである。刺激が特定の行動の生じやすさに影響するのは、その予期機能によってである。刺激が反応と同時に生じたことによって自動的に結合したためではない。」
セルフエフィカシーの臨床心理 p3
ここでいう「刺激の解釈」こそが個人の認知的要因であり、予期機能とも呼ぶ。この予期機能は個人の行動変容に影響する。
予期機能こそが自己効力感・セルフエフィカシー
予期機能には以下の二つがあります
- 「結果予期」とは、ある行動がどのような結果を生み出すのかという予期
- 「効力予期」とは、ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまくできるかという予期。これがセルフエフィカシーです。
この「効力予期」を持っている人のことを、「セルフエフィカシーがある」という。
セルフエフィカシーと行動変容
行動変容とは、外的環境の変化により人の行動が変化する事を指します。対象者の行動変容を促すには、まず対象者が目的達成に対してどのような考え?行動を起こしているいるのか?を知る必要があります。これを「行動変容のステージ」と言います。
セルフエフィカシーと行動変容の関係は以下のように言われています。
自己効力感が強いほど,実際にその行動を遂行しやすい傾向にある。つまり,行動変容の成功は,自己効力感から予測できる。
行動変容 津田彰 日本保健医療健康科学雑誌
対象者が目標達成に対してどの程度のセルフエフィカシーを持っているのかを確認し、以下のセルフエフィカシーの獲得に向けた方策を取ることが重要となります。また、行動変容ステージによって必要とされる指導、アドバイス内容は異なってきます。特に関心期から維持期の場合はよりセルフエフィカシーを高めるようなアプローチが必要とされますが、無関心期に関してはまず、行動変容に対して関心を持ってもらう、情報を提供するなど自己の気付きを促すことかた始めることが勧められています。
参考論文、情報
行動変容に関しては、
- 多理論系統モデル
- 社会的認知理論 *バンデューラーが作成
- 動機付け面接法
この3つが広く活用されており、どの理論でもセルフエフィカシーは非常に重要な因子とまります。
セルフエフィカシーの獲得
遂行行動の達成、成功体験
何かに成功した時やうまくできたなどの成功体験があると、その結果を引き起こすための効力予期が高まる(=自己効力感・セルフエフィカシーが高まる)。逆に失敗を繰り返したり、成功体験を積んだことのない結果に対してはセルフエフィカシーは下降すると言われています。
代理的経験
他人が行っている様子を観察することで「これなら自分でもできそうだ」と感じたり、逆に失敗しているところを見て自信を失ったりすることでも自己効力感(セルフエフィカシー)は変化します。
自己強化や他者からの説得的な暗示(言語的説得)
暗示や自己教示を遂行行動の達成や代理的経験の補助的に使用することで、セルフエフィカシーが変化する。ただ、言語のみのアプローチのみで行動変容を導くの難しいかもしれません。
生理的な反応の変化を体験してみる(情動的喚起)
これならばできるという課題に対して、実施する直前で「できないのではないか」と不安になりドキドキしたり、手に汗をかいたりする。逆にドキドキしなかったり、手に汗もかかず、余裕の状態を自分自身で認識することで「これならばできる」という気持ちが高まる(=セルフエフィカシーが高まる)と言えます。
初めて行う運動や課題を実施した時の情動(生理的な反応のこと)と比べて、現在はどのように感じるのか?どのような反応がご本人の中であるのかを確認、認知してもらい運動・課題に対する自己効力感(セルフエフィカシー)を高めていく。
リハビリ場面での例
以前は平気で歩けていたが膝が痛くて歩けなくなった場合、他人からそのうち治ると言われても不安になり、痛いがあるから体も動かさなくなる場面を多く見かけます。このような場合に治療者からの手助けによって体重を乗せても痛みが軽減し、徐々に以前の歩きに近づく(成功体験)ことで「歩きを獲得するため」の行動変容が生じていきます。
また近所で同じように膝が痛い人がまた歩けるようになったと成功体験を聞いたり、膝専門の医者がいる病院を受診して治療してもらうことでも自己効力感が変化していきます。
加えて治療者は対象者の歩きの状況に応じて、歩いた時や立ち上がる時、動き始める時などのご自身の感覚を伺い、以前とは異なり痛みの変化のみではなく、生理的な反応(動き始めるのが億劫だった、気合いを入れて動き始めた、しゃがむのにも一苦労だった、少しの距離の歩行でも痛みの再発に怯えていた。などなど)も含めて変化している点を自己認識してもらうことでより運動に対する自己効力感が向上していきます。
セルフエフィカシーの評価方法
ある課題に特化した評価方法
ある特定の課題に対するセルフエフィカシーの評価として3つ基準があります
- 水準 ある特定の行動(課題)を構成する様々な下位次元の行動を容易なものから困難なものへと主観的あるいは客観的な困難度に従って配列する。どの程度の課題ならできそうかを確認する。
- 強度 水準で列挙された課題を、それぞれどれくらいの確率でこなす自信があるのか?を評価する事
- 般化 ある特定の行動に対するセルフエフィカシーの変化が、他の行動や一般的な行動にどの程度反映されるか?
本人が「この位の課題」なら、「実行する事ができる」というのを探るのが運動指導や治療場面での自主トレ指導では重要かと思います。
一般性セルフエフィカシー尺度
ある特定の課題にたいする質問ではなく、より多くの人が共通に経験しているような場面に対する質問で構成される。
一般性セルフエフィカシー尺度 GSES(坂野、東條1986)
「Yes(1 点)」または「No(0 点)」の 2 件法 で回答を求める尺度である
坂野らは,抑うつ状態にあ る患者と健常者とで GSES 得点を比較し,抑うつ状態 にある者は,そうでない者に比べて得点が有意に低いこ とを明らかにした。
GSES が高い人は,困難な状況において,①適切な問題解決行動に積極的になれる,②困難な状況でも簡単には諦めず努力することができる,③腹痛や不眠などの身体的ストレス反応や,不安や怒りという心理的ストレス反応を引き起こさない適切なストレス対処行動ができ,かなりストレスフルな状況にも耐えられることが明らかにされている。したがって,GSES を高めることで適切な対処行動や問題解決のための行動をとることができるといえる.
地域看護に活用できるインデックス 自己効力感
参考文献
実践での活用
運動指導やリハビリの場面でセルフエフィカシー尺度を使用するのが望ましいですが、できない場合は対象者の性格、キャラクターを会話の中から掴むことから始めることで一般的なセルフエフィカシーの全体像は捉えることができると思います。
- 運動や健康に対して自主的に取り組んでいる方なのか?(行動の積極性)
- ご近所つきあいはあるのか?(行動の積極性)
- 堂々としている?不安そうにしている?(失敗に対する不安)
- 自分一人での運動をすることで症状の悪化が不安かどうか(失敗に対する不安)
- 優柔不断そうか?(失敗に対する不安)
- 社会貢献をしているか?ボランティアなどをしているか?
身体機能や症状だけでなく、何気ない会話から見えてくる対象者の一面も重要なヒントになると思います。
また、リハビリの場面では医師から症状に対する診断名がつけられ、病態や予後がよくわからないままリバビリに回ってくる方が多くいます。もし、対象者が症状に対してご自身や周囲の人などから情報収集して何か行動を起こしているのであれば、それを尊重してより自己効力感を高めてあげる方針でアプローチすることが望ましいです。
しかし、何も情報もなく行動変容ステージいう無関心期である場合も多々あります。無関心期というよりは、行動を変えた方が良いと感じていないから無関心、自分の体にあまり関心がない、気にかける余裕がないというのが現実だと思います。
この場合は
- 対象者に症状がなぜ起こるのか?
- どんな対処方法があるのか?
- 予後はどうなのか?
- どんなことを実行するとどんな損得があるのか?
などの情報を提供して関心を持ってもらう作業から始めることが大切です。
その他のセルフエフィカシー尺度の紹介
まとめ
まずは相手を知ること。身体機能や病態ばかりに着目して指導するのではなく、その人なりの思考や社会関係などに興味を持ち、尊重して指導することで満足度が上がり長期的な関わりになると思います。
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