オピオイドとは? 受容体・作用・鎮痛・報酬なども含めて解説

理学療法

「オピオイド」という言葉はセラピストやトレーナーで一度は聞いたことあると思います。これは単に薬や麻薬の話ではなく運動や痛み、報酬系に非常に深く関係する物質なのです。そのオピオイドについて解説します。

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    オピオイドってなに?

    オピオイドとは「中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介してモルヒネに類似した作用を示す物質の総称」

    日本ペインクリニック学会

    脳内に20種類ほどのオピオイド物質があります。メチオニンエンケファリン、ロイシンエンケファリン、エンドルフィン、ダイノルフィンなど。以下の3つに分類されます。

    • 植物由来の天然のオピオイド
    • 化学的に合成・半合成されたオピオイド
    • 体内で産生される内因性オピオイド

    オピオイド受容体の種類は?

    オピオイド受容体には

    • μ受容体(モルヒネやβエンドルフィンが作用)
    • δ受容体(ロイシンエンケファリンが作用)
    • k受容体(ダイノルフィンが作用)

    オピオイドの作用は?

    どのオピオイドも基本的には神経伝達物質の遊離や神経細胞体の興奮性が低下するために神経活動が抑制されます。

    具体的な作用として

    • 情動作用、報酬作用
    • 鎮痛作用、下行性疼痛系の賦活
    • 鎮咳作用、呼吸抑制作用
    • 消化管運動抑制(便秘)  などがあります

    作用するオピオイド受容体の場所によって出現する作用が異なります。

    鎮痛作用について

    この中で鎮痛作用は,主にμオピオイド受容体を介して発現する。μオピオイド受容体を介した鎮痛作用は以下の通りです

    ①上行性痛覚情報伝達の抑制

    脊髄における感覚神経による痛覚伝達の抑制や視床や大脳皮質知覚領域などの脳内痛覚情報伝導経路の興奮抑制による鎮痛

    ②下行性抑制系の賦活化

    中脳水道周囲灰白質,延髄網様体細胞および大縫線核に作用し,延髄-脊髄下行性ノルアドレナリンおよびセロトニンなどの神経伝達物質による鎮痛

    がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 薬理学的知識の項参照

    情動・報酬について

    オピオイド受容体は扁桃体や帯状回,腹側被蓋野,側坐核などの情動制御にかかわる部位に高密度に存在していることから,情動制御にも深く関わっています

    オピオイドはそれ自身が快および不快 の方向に情動を引き起こす.また,その鎮痛作用によって,痛みという不快を抑制することで快の方向に情 動を導く

    報酬効果と鎮痛効果の異なる作用機序より引用

    また、報酬作用に関してはドーパミンは常時放出されすぎないように介在ニューロンによって調節されてます。オピオイドが介在ニューロンに対して抑制性に作用(脱抑制)することでドーパミンを放出させ報酬作用をもたらします

    オピオイドはどこから出るの?オピオイド受容体はどこ?

    オピオイド放出部位

    内因性オピオイドとして代表的なのはβエンドロフィンです。放出される代表的な場所は側坐核下垂体前葉です

    1. 側坐核:ドーパミンを受けてβエンドロフィン放出
    2. 下垂体前葉:POMC(プロオピオメラノコルチン)からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を生合成する過程でβエンドロフィン放出

    POMC(proopiomelanocortin:プロオピオメラノコルチン)のプロ(P)は前駆体を、オピオ(O)はオピオイドとしてのエンドルフィンを、メラノ(M)はMSHを、コルチン(C)はACTHを意味する。 POMC遺伝子は主として下垂体前葉のACTH産生細胞で発現していて、CRHによって発現が誘導されると、プロセシング*を受けて、ACTHやMSHなどに分解されてその作用を示す。

    ストレスとPOMCより引用

    *プロセンシング/加工するという意味で、生化学では合成した核酸や糖、タンパク質などを処理して最終的な物質に変換する過程をいう.

    コスタンゾ明解生理学より引用

    オピオイド受容体の分布

    オピオイド受容体は広範囲に存在し、末梢神経・脊髄・脳に分布します。特に脳では、側坐核、扁桃体、腹側淡蒼球、視床下部、中脳中心灰白質、延髄の傍巨大細胞網様核、などがあげられます。

    慢性疼痛のサイエンスp42 図2-10参照
    がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 薬理学的知識の項参照

    内因性オピオイドはどうやったら放出されるの?

    高強度の運動 

    身体的なストレスを受けて、ホルモン分泌される過程でβエンドロフィンが放出されます。主観的強度で「ややきつい」や乳酸作業性閾値以降の運動負荷からβエンドロフィン放出が促されます。これはいわゆる「ランナーズハイ」と言われる状態に関係していると考えられています。

    痛み刺激

    痛み刺激→腹側被蓋野(VTA)→側坐核→オピオイド分泌の流れで分泌されます

    体のどこかに痛み刺激が加わると,VTAに活動電位の群発射が起こり,軸索の先端から側坐核(NAc)や淡蒼球(VP)に向けて,dopamineが高濃度に放出される.dopamineとopioidの経路は脳内で重なっており,dopamineが放出されると脳内にopioidが分泌され,下行性痛覚抑制系を介して痛みが抑制されると考えられている

    慢性疼痛と脳 第2回 M-Revie

    下行性痛覚抑制系は中脳中心灰白質から始まり脊髄後角で2次ニューロンでの痛覚情報の伝達抑制に働きます。この中脳中心灰白質にもオピオイド受容体があり、オピオイドと結合することで鎮痛作用が働きます。

    「痛み」により大脳辺縁系や脳幹が刺激されることで、ダイノルフィン作動性神経も刺激され、ダイノルフィンの産生・放出を促す。大脳辺縁系では側坐核に作用するドーパミン作動性神経にあるκ受容体とダイノルフィンが結合しドーパミン放出を抑制する。これにより快刺激が低下するので不快となる。また脳幹から脊髄後角へ移動し痛みの1次ニューロンと2次ニューロンのシナプスにあるκ受容体に結合して鎮痛をもたらす

    痛みの考え方 p198参照

    ダイノルフィンに関しては鎮痛に伴い不快を伴うのが特徴です

    快楽刺激 

    ラットに数種類の味溶液を摂取させ、脳内のβエンドロフィン量を測定すると、ラットのもっとも好む砂糖やサッカリンを摂取した時に最も大きな値を示す。

    おいしさと食行動における脳内物質の役割 山本隆

    人は好きなものを食べたり飲んだりすることで、幸せな気分になるのは誰もが経験したことありと思います。この時脳内ではドーパミンやβエンドロフィンが放出されてます。

    1. 食べたもの情報が味覚野、前頭連合野に送られそこから大脳辺縁系(扁桃体)に送られます。
    2. 扁桃体で情動形成や快・不快の判断します。
    3. ここで美味しいと判断されれば扁桃体は側坐核を刺激することでβエンドロフィンが放出されます。
    4. そしてより食べたいと報酬系が視床下部に対して働きかけます
    5. 視床下部の摂食中枢に作用することで実際に食行動にでます。

    これら各脳内物質は個々で作用するのではなく物質間の相互作用、連動作用として効果を発揮すると考えられているそうです。

    おいしさと食行動における脳内物質の役割 図2参照 山本隆 一部改変

    実際に食べる(摂食)のみではなく、「美味しそうなにおいがする」や「以前食べて美味しかった」などの記憶が脳内に蓄積されていることでにおいや視覚だけでも辺縁系・報酬系・視床下部の回路が回るのが面白いですね

    報酬予測や予想以上・予想外の報酬 

    上記の快刺激のように食べること以外に好きな音楽を聴いたり、好きなことをしているときは報酬系が働くことでβエンドロフィンが放出されます。

    外部からの刺激が感覚野に到達→扁桃体で価値判断→側坐核→βエンドロフィン放出の流れです。またこの時の刺激は大脳からの情報→中脳腹側被蓋野→(ドーパミン放出)→側坐核を刺激する経路もあります

    報酬系では予想していた以上の刺激があるとより多くのドーパミンが放出されます。よってβエンドロフィンも多く放出されると予想されます。

    逆に予想していたよりも刺激・快感が少ない場合は、ドーパミン放出量が低下し、βエンドロフィンの放出も低下されると予想されます。

    加えて、報酬を得られると予想しただけで脳内の報酬系は反応することが知られています。この薬を飲んだら痛みがよくなると医者に言われて飲んだ薬(本当は何の効果もない)で痛みがよくなるのは、この報酬系が反応してドーパミン、βエンドロフィンが放出され鎮痛に働いたからです。これをプラセボ効果と言います。

    豆知識として、プラセボが成り立つには学習や認知機能,前頭葉の活動とのリンクが必要である.アルツハイマー疾患(AD)や脳血管障害性の認知症では,プラセボ現象は起こらない.ADでは,背外側前頭皮質(dlPFC),眼窩前頭皮質(OFC),前帯状皮質(ACC)に神経変性が認められる.dlPFCの機能は,時々刻々と変化する周囲の環境を認識し,学習し,次にどんな行動に移るか企図することである.前頭葉に神経変性が起きた状況では,「研究中の薬」を静注する意味や,清涼飲用水とプラセボの組み合わせが学習できず,したがって期待も予測もしない.期待や希望の存在しないところにプラセボは成立しないのである.

    Think about pain 慢性疼痛と脳 第4回 半場道子 参照

    まとめ

    オピオイドについて簡単にまとめました。運動刺激や快楽刺激によって内因性オピオイドが放出されることを臨床やトレーニングの現場でうまく活用することは工夫しだいでできそうですね

    例えば好きな音楽を聴きながらの運動や作業、アロマなどのにおいなども活用しながらより報酬系に働きかけながら行うことなどがあると思います。

    またプラセボに関しては薬のみではなく、場所の雰囲気やスタッフの服装、ふるまいなども含まれるため普段の身のふるまいも非常に重要になってくると思います

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