近年注目を集めている慢性炎症について簡単にではあるが、まとめてみました。
特に運動との関わりについては注目していきたいところです。
参考図書はこちら↓
急性炎症と慢性炎症
炎症には急性炎症と慢性炎症があり、それぞれ同じ炎症だが中身は全く異なる。
急性炎症とは組織損傷や感染など何かしらダメージを受けた際に起こる「治癒反応」です。
治癒反応の過程で、化学伝達物質(プロスタグランジン、ブラジキニン、炎症性サイトカイン)により疼痛や腫脹が生じ最終的に炎症は収束し、組織が修復されます。(場合によっては組織増殖により瘢痕化が生じます)
急性炎症とは異なり、慢性炎症は以下のようなことを指します
全身に燻り続ける低程度の炎症で、発熱も発赤も腫脹もほとんど目立たないが、気づいた時には致死的なダメージに至る反応系である。それゆえ「万病の源」と呼ばれる。
慢性痛のサイエンス p145〜
代表的な疾患としては、変形性関節症、2型糖尿病、慢性肺疾患、アテローム性動脈硬化、大腸がん、前立腺がん、パーキンソン病、アルツハイマーなどが挙げられる。
慢性炎症の成り立ち
生活習慣病に見られる慢性炎症を引き起こす誘因の多くは非感染性(無菌性炎症)と考えられる。例えば、組織傷害により細胞外に放出される分子(ダメージ関連分子パターン、damage/danger-associated molecular patterns,DAMPs)が自然免疫系の病原体センサーにより認識され、炎症シグナルを活性化する
慢性炎症と加齢疾患
急性炎症とは異なり、慢性炎症では自身の体の中で組織傷害が生じることによって、自然免疫系(白血球やリンパ球)が反応し炎症を引き起こす。
慢性炎症により組織破壊と修復が繰り返されると線維化などの組織構築(組織のリモデリング)が起こる。これにより組織自体の機能傷害を起こす(肝硬変、腎不全、変形性関節症の関節包の肥厚、血管新生など)
その代表的な例が、生活習慣病である。
なぜ、炎症が収束しないまま継続するのか? 組織治癒のための炎症がなぜ長引くのか?など未解決な部分は多いよう
各疾患の慢性炎症の成り立ち
生活習慣病に共通する事は、運動不足、暴飲暴食、過剰なストレスなどが挙げられる
脂肪の過剰な蓄積による脂肪細胞の肥満化。余分な脂肪細胞が貪食され免疫系が活性化されることで慢性炎症へ(脂肪組織の慢性炎症)
タバコやアスベスト、有害物質などにより気管支の炎症がひき起こされる。これが慢性的となり日常生活での活動性が低下することでも脂肪の蓄積による慢性炎症も起こす。
関節軟骨から剥がれ落ちた微細な物質を除去するために免疫系が活性化され滑膜に炎症を引き起こす。炎症が長引くことで骨組織まで組織破壊が進んでいく。慢性肺疾患と同様で活動性が低下→脂肪細胞蓄積と全身的に慢性炎症が起こってしまう。
それぞれの疾患だけで慢性炎症が継続されるのではなく、一つの疾患から波及し全身的に慢性炎症が続いていくのが「万病の源」と呼ばれる理由でしょう。
慢性炎症に対して何をすればよい?
運動
運動することによって筋肉から放出される物質(マイオカイン)が存在する。この生理活性物質は血流やリンパ流に乗って脳、骨組織、肝臓、膵臓、脂肪組織などの臓器に運ばれ、そこで臓器の機能と密接に関わる。筋肉の細胞は単純に体を動かすためだけではなく、生理活性物質を分泌する分泌器官でもある。
myokine(マイオカイン)の例
- BDNF(脳由来神経成長因子)
- FGF-2(線維芽細胞増殖因子)
- IGF(インスリン様成長因子)
- VEGF(血管内皮成長因子)
- IL-4、6、10など
強度の軽い運動でIL-10、4などの抗炎症作用を有するマイオカインが放出され、これが全身的な慢性炎症に作用する。
これに加えて運動によって複数の転写調節因子や共活性が活性化して慢性炎症を抑制する。
その代表例が転写因子であるPPAR-γとその共活性因子のPGC-1α。
PGC-1α(peroxisome proliferatoractivated receptor γ coactivator-1α)
日本語でペルオキシソーム増殖因子活性受容体と呼び、体を動かすことで筋肉中に発現する。以下の複数の作用を持つ
- エネルギーとATPの不足を補う
- 筋萎縮を抑制する
- ミトコンドリアの数を増加、機能を向上
- 活性酸素による酸化ストレスを防ぎ老化を抑制する
まとめると、抗炎症作用・抗酸化作用・抗老化作用がPGC-1αの作用である。
報酬系に対して快刺激を
慢性炎症による疼痛に対しては局所に作用する痛み止めは効きにくく、中枢神経(脳・脊髄)に作用する薬の方が効果があると言われています。代表的なのが、デュロキセチン(サインバルタ)です。
この中枢神経からの鎮痛作用を促すのが、薬以外の手段だと『報酬系に対する快刺激』となります
報酬系に対して快刺激を続けることで、疼痛抑制しその間に不動による身体機能低下や生活習慣による慢性炎症に対して運動療法や食事療法など実施し、疼痛コントロールを円滑に進めることも目指します。
内臓に対してよい栄養を 食物繊維、短鎖脂肪酸酪が重要
炎症に対しては免疫細胞が反応し、病原体やウイルスの除去や外的刺激による損傷部位の修復のために免疫細胞が活躍します。この免疫細胞は骨髄細胞から産出され、大部分は腸に存在しています。この免疫細胞の栄養となるのが、食物繊維や食物繊維の消化吸収の末に産出される短鎖脂肪酪酸です。
慢性炎症に対抗する作用、いわゆる抗炎症作用を有するのが短鎖脂肪酪酸です。
何事にも運動・食事・睡眠は大事
運動だけではなく免疫系のことを考えると食事から吸収される栄養素の影響は非常に大きいと考えられます。また免疫系は自律神経と内分泌による影響を強く受けます。そのため、運動と食事に加えて睡眠も重要となってくるのでしょう。
当たり前ですが、運動・食事・睡眠の3つをバランスよく整えるのが何事に対しても重要である事は間違いなさそうです
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